ツキハヒガシニ

    

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桜を彫りたい紅丸の話9



 休日の朝、ヴァルカンが以前に作ってくれたコーヒーメーカーが抽出してくれているのを待つ間に、桜備は一枚のレコードを探していた。
「お、あったあった」
 浅草で降る雪を眺めている時の会話に出てきた歌。棚の奥の方で埃を被っていたそのレコードは、桜備のコレクションの中でも他とは少し毛色が違っていた。ケースの埃を軽く落とし、円盤を取り出しプレーヤーにセットする。針を落とすと流れ出したのは、穏やかでゆったりとした旋律に、物悲しい歌詞。滅多に聞かないフォークソングも、少し肌寒い朝の空気に合っていて心地よかった。
 この歌で歌われている<東京>は自分が生まれた<東京>とも今住んでいる<東京>ともまったく違う世界だろうが、別れの切なさには共感できる。情緒など意に介さなそうだが、原国の文化が色濃く残る街で育った彼がどんな感想を持つのか興味があった。
 元第七のあの屋敷にレコードプレーヤーなんてありそうにないから、この部屋まで来てもらうのが手っ取り早いかも知れないな。たわむれな思いつきがレコードと一緒に頭の中を回る。
 たとえば、シンラやアーサーは桜備から見れば子どもか弟のようなものだ。部下でありヒーローであり神であり、一言では表せない複雑さはあれど、どちらかと言えば肉親に近い関係なのは間違いない。紅丸も年齢で言えばシンラ達に近いが、出会った当初から立場は対等で、子ども扱いが失礼になるほどに強靭さも背負うものの大きさも過剰だった。お互いに違う正義を生きているのは明白でも、肩を並べ手を取り合うに足る存在。中途半端だが、だからこそ稀有ではある。
 それが恋だと、まさか愛だと。
 疑いを捨て素直に向き合うのがこんなにも難しい事案は今までにあっただろうか。相手の気持ちも自分の気持ちも、どちらも易々とは信じられない。とはいえ、ないがしろにするつもりもないが――



「これ、お見舞いのメロンです。本人はいらないからヒカゲとヒナタにあげてくれって」
 紅丸の部屋を出た桜備は、土間にある台所で夕飯の支度をしている紺炉を見つけ、声をかけた。紺炉は包丁を動かしていた手を止め、笑顔で面を上げた。
「おぉ、悪いな折角持ってきてくれたのに。若もスイカは好きだよ。ウチの畑でも育ててるし。それに若の手刀スイカ割りは芸術だからなァ。夏になったら見に来るといい」
「芸術的スイカ割り……」
 想像し難しい言葉を反復し、首をひねる。その顔を見ていて何かに気がついた紺炉は、怪訝そうに眉をひそめた。
「おいおい総隊長、若に熱うつされたか? 顔真っ赤だぞ」
「もーそれ分かって言ってるでしょ? 人が悪いな……」
「ハハ、まぁな。でも、分かってんのにはぐらかすのだって良かァないだろ」
「っそんなつもりは……」
 ない、とも言い切れないせいで、嘘がつくのが得意ではない桜備の言葉尻はあからさまに濁る。その様子を見ていた紺炉は、ふぅ、と鼻から息を抜いてから眉尻を下げて微笑んだ。
「そっちの立場からすると突拍子もない傍惚れに思えるかも知れないけど、若もこういう勘に関しては悪くないんだ。ケツの青いガキの酔狂とも言い切れない」
「はぁ」
 桜備は曖昧な相槌を打ちながら、紺炉が伸ばしてきた手にメロンを渡した。
「俺もいまさらあんたのことを疑っちゃぁいないが、ああ見えて意気地がないし、意外に打たれ弱いところもあってね。ひどい女に遊ばれて捨てられるくらいならまだ慰めようもあるが、相手が桜備じゃ俺の手に負えそうにない。他にもっといい男はいる、なんて簡単には言えねェしな」
 受け取ったメロンを両手の中で転がして品定めながらそう言い、最後に困ったように微笑み肩をすくめる。
「しかしどうにも、腑に落ちないと言いますか。その……なんというか、モテるでしょう、新門総指揮は」
「そりゃあもう、女にも、それこそ男にもモテるよ。袖にされて泣いたり狂ったりしてる奴も数えきれないくらい見てきたが……まあ、そいつらの中に脳天ぶっ叩いて血ィ出させるようなのはいなかったのはたしかだ」
「その節は、ご迷惑をおかけしました」
「いや、むしろありがたかった。アレも若が頭んなる覚悟決めた切欠のひとつだ。まぁ…それ以上に妙な拗らせ方しちまったみたいだが……下手に口出す気はねェけど、嫌でも目に入っちまうからなぁ。俺としては、若が楽しそうならそれでいいよ」
 落ちくぼんだ眼窩の奧の目が、じっと桜備の顔を見つめる。微笑みの浮かんだ口元に比べると、眼光は冷たく鋭い。いまだ顔の中央に残る一文字の聖痕は一切歪んでいない。
「紅のこと、よろしく頼むな……盃を交わしているとは言え、万が一不義理で頭の面子を潰されるようなことになりゃ、こっちも黙ってるわけにいかないんでね」
 丹念に研がれた出刃包丁を握っていた紺炉の右手に力が込もり、ストン、と頭ほどもある大きなメロンを軽々と断つ。真っ二つに割れたメロンの片割れがゴロリとまな板の上を転がり、無数の種が並ぶむき出しのオレンジ色の中身が、新鮮な果汁を滴り落としながら桜備の方を向いた。
 そこんとこよろしく、と念を押す紺炉の声が暗い土間を這う。桜備はすぐには頷けずに、ゴクリと口内に溜まった唾を呑むにとどめた。


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乾杯
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3/27 春生まれ
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スキルカード出ました…!!誕生日に出て逆にありがたみマシマシ
改めてバスケならそこは普通オグンだろってとこに収まってるの謎すぎる

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帽子の色まちがってる

SS

    
原作エピローグ軸小話 桜備視点
隣にいると



 シンラが創り直し、世界は果てがどこかも分からないほどに広くなった。
「おお、ドラゴン……」
 今回初めて訪れた大陸を西に進み辿り着いた、360度巨大な岩と砂としか見えない乾燥した荒野。高台に陣取ったので見晴らしは良く、ひとつふたつ向こうの岩場の陰からあらわれ空を悠々と横切っていく動物にもすぐ気がついた。手の平で庇をつくって目を凝らし、そのファンタジックな存在を認識すると思わず感嘆が漏れる。
「えらいデカそうだな。しかし、鳥にしちゃ不格好だろ。よくあんな羽で飛べるもんだ」
 隣に立つ新門が、非対称な目を細めることもせずぼんやりとした表情のまま同じ方向を眺め、感心した様子で言う。
「まぁー、なんでもありですからね。羽なんてなくても飛んでるのいっぱいいるし……」
「アイツを狩って飼い慣らしたら移動が楽そうじゃねェか?」
 本気で算段をしているのか、腰に差した刀に預けた左手の指先が、トントン、と一定のリズムで(つか)の頭を叩いている。それを横目に見ながら、人に危害がないものには手は出さないでくれとか、そもそも一撃で殺さない方法を知っているのか?とか、言いたいことがいくつか頭に浮かぶ。
「そういえば、新門総指揮も発火能力が無くなって飛べなくなりましたね」
「今更だな」
「……能力が戻ったらいいのにな~とか、思うことあります?」
「べつに、思わねェよ。おかげで紺炉の灰病が治ったってのに」
 先遣隊の様子見のためにこの場を離れている男の名前が出て、柄を叩いていた指先の動きも止まる。「優しいですね」と素直な感想を漏らすと、照れ隠しなのか横目上目で睨まれた。
「それに、今でも本気出せば家二ツ分くらいは一足に跳べる。体の軽さで言えば前以上だ」
 ふふん、と口端をわずかに持ち上げ、珍しく得意げな表情を見せる。楽しそうで何よりだ、と思いながら空に目を戻すと、まったく知らない別の空のはずが、東京の、というよりも浅草の空と同じに感じるから不思議だった。


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メモ

    
3/24 コラボ?!
スキルカード出ない…と思ってたらSEコラボイベントと推し(シュタイン)のガチャ来て大混乱してます
ええええ????

炎炎のアニメ最終回からのソウルイーター再アニメ化とか無いかな…

++

非公開で叫んでたのをそろそろ外部につなげます つなげたとて人来ないと思うけど
このタイミングで二次創作始めるとまさかのスキルカード落ちだと思われそうで不安
ちがいます

    
初描き大隊長

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スキルカード来い のラートム

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桜を彫りたい紅丸の話8

 桜の花芽が膨らみ出し、朝着た上着を昼には脱ぎたくなるような日も増えて来た頃、新東京皇国に季節外れの雪が降った。
「え、高熱ですか? なにか感染症の疑いは?」
『念のため元第六のお医者さんにも診てもらったが、問題ないだろうってさ』
「なら良かった。どうせ大した会議じゃないんで、お二人とも欠席で大丈夫ですよ」
『そうさせてもらう。若は能力者の体質のせいか、昔っから熱が出やすくてね。心配するほどのもんじゃないよ』
 電話口の紺炉の声色には、本人の言葉通り深刻さはまったくなかった。電話を受けていた桜備は、最後に一言二言告げてから受話器を置くと、背後に控えていた火縄を振り返った。
「新門総指揮、今朝から熱出てて会議休むって」
「へぇ。病気の方から逃げ出しそうなのに、意外ですね」
「だよな。病気を追いかけ回していじめてそうなのに」
 火縄の感想に頷き同意しながらも、桜備の目はささめ雪が舞う窓の外を向いていた。心配そうな横顔を”心配そう”と認識できるのが火縄だからなのか、それとも誰の目から見ても明らかなのか、判断が微妙になる程度の表情だった。
「お見舞い、行ってきたらどうですか。どうせ大した会議じゃないですし」




「ろ……こん、ろ……みず」
 布団から片手を宙へと伸ばし呻く紅丸に、はい、と茶碗が差し出される。その、はい、の声の違和感に気づき薄っすらと目を開けた紅丸は、傍らにいるのが紺炉ではないことに驚き、氷枕も掛け布団もはね除けて上体を跳ね起こした。
「なっ……!」
「うわ、びっくりした。寝てていいですよ」
「吃驚したのはこっちの方だ。てめェ何しに来た」
「何ってそりゃ、お見舞いです。あ、メロン好きですか?」
「好きじゃねえェ……けど双子は喜ぶだろ」
 桜備が片手で掲げた本人の顔と同じくらいの大きさがあるメロンの球を睨み付けながら水を飲み、ノロノロと布団の中へと戻る。
「体調どうですか?」
「どうもこうもねェ。最悪だ。……そういやさっき寝てる時、つっても熱のせいで寝てるか起きてるかもよくわかんねえんだけどな。今のこれも、夢か現かわからねェ。まあとにかく、夢を見てた」
「また前みたいな実体感のある夢ですか」
「ねェよ。実体感も現実感もねェ。ガキの頃の夢なのに、お前も出てきたからな」
「へえ」
「ガキん頃の俺が、町の外れにあるがらくた置き場で能力の使い方間違ってうっかり炎上させちまう。そこを助けに来たのが皇国の消防隊様々ってわけだ。で、起きたら本人がいたもんだから、よけい吃驚したんだよ」
「なるほど」
「四方を火に囲まれて、熱い熱いって泣いてんのが情けなくって我ながらムカついた。熱のせいで見ちまった夢だな」
「ちなみにそれ、いくつぐらいの時ですか?」
「さあな。十かそこらじゃねェか? 先代も生きてたから、どんなに育ってても十三だ」
 あくまでも夢の話なのにまるで実際の思い出のように話すフワフワとした紅丸の説明を受け、桜備は、ふむ、と小首を傾げながら順に指を折った。
 現実感がないと言ったが、その頃の桜備はもう訓練校を卒業して一般消防官として入隊していたはずだ。あり得なくはない。が、もちろん桜備にそんな記憶はないし、そもそも紅丸が炎を怖がったことなど生まれて一度もないだろうから、そういう意味で現実感が無いのかもしれない。
「そういや聞きましたよ。タトゥー入れるって」
「紺炉か。あの馬鹿……」
「どこに入れるんですか? 腕?」
「まだ決めてねえ」
 不満げなドスの効いた声で返され桜備がたじろぐと、紅丸はおもむろに自らの足で掛け布団を撥ねのけた。そのまま両手を左右に伸ばし大の字になると、天井に向かって「選べ」と宙に放るような声で言った。
「選べ。好きなとこ」
「選べ、って言われても……」
 普段つけている黒い腹掛けもなく、寝乱れた浴衣の合わせ目からは首から腰までの素肌が三角形に覗いている。裸を見られるのにも見せるのにも抵抗が無い元第八の男性陣と違い、この男が必要もなく素肌を晒すのは稀だ。活動時間が夜に寄っているせいなのか生まれつきなのか、肌は不健康に青白く、そこに熱のせいでほんのりと赤みが差し、妙に人間らしい色になっている。
「布団、ちゃんとかけなさいよ」
 なんとなく見てはいけないようなものに思え、本人が剥がした布団を手早く元に戻す。気恥ずかしさから、子どもを嗜めるような口調になってしまった。
「そういや知ってます? 今朝から雪降ってるの」
 話題を変えようと声を張ってそう問いかけた桜備は、部屋の中央に敷かれた布団を回り込んで移動し、縁側の障子に手を掛けた。30センチほどの隙間から、薄っすらと白くなった庭と、チラチラと雪が舞う藍鼠色の空か覗く。雨と雪の境のような、氷の粒に近いみぞれ雪だ。
「すっかり春になったと思ってたってェのに。どうなってんだ」
「なごり雪ってやつですかね」
「なんだって?」
「なごり雪。こういう、季節外れに降る雪。俺はもともと歌の歌詞で知ったんですけど」
「……知らねェな。それよか、用がねェならとっとと帰れ。デカいのがいると気が散って寝れやしねェ」
 寝込んでいても減らない口にはいはい、と呆れ顔で返し障子を閉めようとした桜備は、中途半端なところで手を止めた。
「……どっちなんですか」
 言葉とは裏腹に、布団からはみ出した紅丸の手は桜備の服の裾をしかと掴んでいる。困惑する桜備が呟いたもっともな疑問に対しての返事はなく、そもそも言葉を発する気力すらもう無いのか、息ばかりが荒い。それでも、見下ろす桜備を見返す細まった双眸の眼光はやたらと鋭かった。
 参ったな、と悩まし気に片眉を歪め目を反らし、仕方なしに、障子の隙間からふたたび外を見る。ここに来るまでの道中にくらべると雪の勢いは幾分弱まり、ハラハラと落ちる白い欠片は花びらのようにも見えた。隙間に鼻先を少し近づけると、途端に冷たい風が吹き付けてくる。
 視線は移さずに、手だけを自分の腰あたりにさ迷わせた。掴まれている場所は服を引っ張られている感覚で大体分かる。だとしても、掴んでいる手を離させようとしたのか、それともただ触れたかったのか、桜備自身にも曖昧だった。そして、いざ触れた途端に感じた熱の高さにハッとし、ほんの一瞬で慌てて引っ込める。俺は一体何を――
 指先の行き場に困り、火傷した時のようについ耳たぶを擦る。発火能力を失ったはずの体がこんなにも熱いのは、高熱のせいだけなのか?
「……アレ、どんな歌だったかな」
 動揺を誤魔化そうという意識が働いたのか、思考は前の話題へと無理矢理に戻っていく。思い出せるのは曲名から始まる数フレーズだけだったが、試しに口ずさんでみると頭よりも口が先に動き出し、たどたどしい調子ながら恐らく合っているだろうメロディーラインを紡げた。
「まぁ、大災害より前の曲だから知らなくて当たりまえですよ。俺もたまたま見つけた古いレコードで――」
 話しかけながら振り返り、いつの間にか目を閉じていた顔を見て口を止める。裾を掴んでいた手の力も完全に抜け、布団から飛び出したまま畳の上にぐたりと落ちていた。自由に動けるようになったもののすぐに立ち上がる気にはなれず、部屋の主の心地よさそうとは言い難い寝顔を眺める。
 あの夜の引き留めに応じても応じなくても、多分結果は変わらなかっただろう。態度や言葉で表せるような、そんな感情はもうとうに越えている。ような気がする。
 うなじを撫ぜる風は冷たいのに、顔はどんどん熱くなっているのを感じる。咲いた桜を眺めるのではなく、咲く寸前の蕾を見守っている時に近い感覚。随分と久しぶりに覚えたときめきとしか表現しようのない期待と高揚感に、自然と鼓動が速まる。
「……悪くないな」
 今春が来て、そして唐突に溢れそうになった感情を持て余し、その一言を呟くので精いっぱいだった。


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