同窓会

 高校の同窓会、といっても都合が合う者同士で勝手に集まり飲んでしゃべるだけの、ただの飲み会だ。店で飲めばいいものを、男だけだからと言って下手に家で飲むことにしたから、止めどころが分からなくなってしまう。
アルコールの許容量を超えた者から続々と潰れていく中、気がつけば家主である上鳴と常闇以外は、皆部屋のそこここに転がりいびきをかいていた。
「な~常闇、そういや、おまえに聞きたいことあったんだけど」
 四角いちゃぶ台の一角を挟んで二人、温くなったアルコールと残りかす同然のつまみを片付けている最中に、改まって話を切り出したのは上鳴だった。
 それを聞いた常闇が、ぴくり、と上瞼に力を籠める。
 さも今思い出したかのように話し出してはいるが、タイミング的に、二人だけになるのを見計らっていたとしか思えない。つまり、ろくな話ではないだろうとは見当がついていた。
「なんだ」
「耳郎のこと、なんすけどね」
「だろうな」
 予想を寸分たがわず当ててきた男は、こうなるとかえって愛らしくなってしまう。愛すべきバカ、と形容していたのは、それこそ耳郎だったか。
「耳郎が前に福岡行って帰ってきたすぐ後に会ったんだけど、そのー、ずーーっと二人のはなしすんだよ」
「二人?」
「だから常闇とぉ…………ホークスのこと」
「そうなのか?」
「ああ。でさ、まさかだけどさ、その、耳郎ってホークスのこと……」
「……ないな」
「な、ないよな~!さすがに、元No.2がまさか耳郎なんかどうとも思わねえよな」
「いや、かわいいとは言っていた」
 はあ?!と、耳に刺さる大声と同時に、動揺のあまり弾き飛ばされた空のグラスがちゃぶ台の下へと転がっていった。
「実際かわいいだろ、耳郎は」
「そりゃまあ、かわいくなくはねえだろうけど」
「……なあ、むしろこっちが聞きたい。なんでお前たちはまだ交際に至ってないんだ?」
 これは、決して常闇だけが思っている疑問ではなく、二人が居ない場で二人を知る者が顔を合わせれば、大抵話題のひとつに上がる雄英高校七不思議のひとつだ。
ただ常闇に関して言えば、二人の間に友情以上のものがあると気づいたのは遅かった。自分がホークスへの感情を整理する内に、こいつらも友情として片付けてはいけない、と悟ったのだ。
 そして今となっては、妙に性格や趣味が合う耳郎とホークスがこれ以上仲良くなる前に、さっさと上鳴にどうにかしてもらいたいと切に願っていた。いや、耳郎とホークスの仲が良いのは構わない、俺は純粋に級友二人の幸をだな――
「こ、こうさいって……」
常闇が自分の狭量さを内心で叱咤しているのも知らず、上鳴は動揺に鼻の穴を膨らませていた。
「今更隠し立てする必要はない。二人が互いに想い合っているのは──」
「ぐああああぁぁぁぁぁぁ」
 上鳴が、みなまで言わせまいと、顔を覆って呻く。その手からは、興奮のあまりかピリピリと小さな電流が発せられていた。
 これは迂闊に近くに居られない、と恐れ少し距離を取ろうとしたところで、ちゃぶ台の上に置いていた常闇の手首を、ガシリ、と上鳴が掴んだ。一瞬怯えたものの、実際に皮膚を走った電流は静電気程度のもので、ほっと胸をなでおろす。
「なんっかさー、俺分かんないんだよね」
 常闇の手首を掴んだまま話し出した顔が妙に真剣なのは、十中八九酒のせいだ。上鳴の色恋事の相談に乗った経験は少なからずあるものの、ここまで酔っ払った状態で話を聞くのは今がはじめてだった。
「お互いなんかあったら最初に相談するし、おもしろいもんとかうまいもんがあったらシェアするし、わざわざ付きあわなくたって、今のまんまでも楽しいし、満足してるし……」
「上鳴、それはちがうぞ」
「え?」
「たとえどんなに互いの距離感が近くなっても、付き合うのと付き合わないのとじゃ、天と地ほどにちがう」
 常闇は説明に合わせて、手に持っていた一本の裂きイカを、更に裂いて二本にし、右手と左手それぞれに一本ずつ持ってみせた。特に意味はない。
「んな断言されると、なんかビビんだけど」
「ビビるな。いいか? 付き合ったら、なんの用事がない時でも躊躇なく連絡できるし、デートと称して無目的に会うこともできる。相手が自分の知らぬところで誰かと深い仲になっていないかなどと心配しないで済む。それに、合法的に意味なく手もつなげる」
 裂きイカを指示棒よろしく鼻先に突き出しながら力説すると、上鳴の脳内では素直に彼女相手に想像をしているのか、みるみる内に表情を喜怒哀楽の判断がつかないような情けないものへと変化させていった。
「だー!もー!分かったよ!!結局、俺が意気地ねえのが悪いんだろ!!!!」
 とうとう耐えきれなくなったのか、会話を放棄して背後にあったベッドへとダイブする。そのベッドではすでに障子と峰田がいびきをかいていて、スペースはほぼない。その極狭スペースにうまいことハマった上鳴は「ってかつきあってないとできないことってけっきょくそういうことだろ~」と、峰田の頭に顔を埋めくぐもった声で呻いていた。
「……このままじゃ、いずれ上鳴も魔法使いになるかも知れないな」
 情けなく丸まった背中に向けて呟いた常闇は、途端に虚無感に襲われ、グラスに残っていた誰のものかも分からない温くなったレモンサワーを煽って気を紛らわせた。




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