秋の夜長
実家から秋の新茶が届いたと、誘い文句にしては渋みのきいた常闇の提案に、ホークスは二つ返事で乗って来た。
「そういや、はじめて君んち来た時も新茶の季節だったね。静岡の男子ってみんなお茶で誘うの?」
「どうだろうな」
常闇は、ホークスの戯れを受け流しながら、湯呑を持っていない方の手でむき出しの首元を摩った。気がつけば、夜風が肌寒い季節になっている。ベランダに出した簡易テーブルと椅子で涼むのは夏ごろから定番になっていたが、それもできなくなりそうな秋の気配が漂っている。
「あ、もういっこ思い出した。エンデヴァーさんち、お寺みたいに庭がでかくてさ。縁側もあって、そこでお茶出してもらったけど、気持ち良かったなあ」
「行ったことがあるのか?」
「うん。たまたま近くに寄ったついでだったけど。連絡しないで行ったらすげー怒られた。おれも暇になったら、ああいうデカい家で毎日ゴロゴロしたいよ──お、鈴虫、鳴いてる」
言われた常闇も、ムッ……と耳をすませてみるものの、聞こえてくる音の中に虫の音は無かった。同意しない常闇を不思議そうに見ていたホークスだったが、しばらくして何かに気がついたようだった。
「ああ、そうか。君は聞こえないか」
そう言うと、どこを飛び回っていたのか、剛翼の羽根の一枚が遠くから飛んできたかとおもいきや、ホークスの肩の辺りで止まった。
「耳じゃなくてこっちだった」
指さされた羽根が、するりと本来の居場所へと戻っていくのを見ていた常闇は、暗く静まり返ってくるベランダの柵の向こう側の街を一瞥してから呟いた。
「俺たちとじゃ、聞こえてる世界が違うんだろうな」
「まあ、それはね。昔から、俺にしか分からない音とか気配が多くて、小さい頃はそれが嫌だった。制御の仕方なんて誰も教えてくれなかったから、どうやって耳を塞いだらいいかも分かんないし」
昔の記憶が蘇ったのか、布製の椅子の上で居心地悪そうに腰を動かし、それを誤魔化すようにお茶をすする。
「夜は特に、人が寝静まるぶん、余計に小さなノイズが気になる。隙間風の音とか遠くの酔っ払いの騒ぎで眠れない時も多かった」
「……俺と一緒に眠るのは、煩わしくないか?」
「ああ、最近の話? それが、自分でも意外だけど全然平気。むしろ、前までよりも良く寝れてるかも」
「……本当に?」
本音とは容易に信じ切れない常闇が、疑いのこもった目を向ける。その視線に対して、ホークスは安心させるように柔らかい笑顔を返した。
「うん。常闇くんの心臓の音きいてると、なんか眠くなってくるんだよ」
すい、と一枚の羽根が常闇の胸元へと飛んでいき、マントの留め具の上に張り付いた。心臓の音を聞かれている、と思うと、常闇の胸中は落ち着かなかった。
「天井とか布団が真っ黒なのも、逆に新鮮で落ち着く……あ、あとダークシャドウがいるのも、安心できる要因かも。ボディーガードとしては最強だよなあ」
ホークスのが感心したように言うと、常闇の脇で浮いていたダークシャドウが「マカセロ!」と嬉しそうに体を上下に揺する。
「フミカゲもホークスも、寝テル時が一番仲良さそうに見エルゼ」
「そう? 俺あんま寝相良くないでしょ」
「アア。フミカゲ、ホークスに抱キツカレてたまに苦しそうにシテル」
ダークシャドウが一切の含みなく口にした説明に、ゲ、と二人が同時に苦みのこもったうめき声をあげる。同時に常闇が手元で湯呑を取り落としたために、静かだったベランダはしばらく賑やかになった。