快晴
剛翼はどうしたら生えてくるのか。
常闇がその質問をしたのは、まだ高校1年生の時。インターン中の休憩時間に、福岡でのエンデヴァーとの共闘について話をしている時だった。
「んー、皮膚とかといっしょで自然に再生するけど……。あ、でも、早く回復させる方法はあるよ。あのね、とにかくたくさん食ってたくさん寝ること!」
と、笑顔で言っていたその答えが、特に冗談でもなんでもなかったらしいと知ったのは、ホークスと付き合い始めてからだ。
その日は朝から快晴だった。
午前中に布団を干して、仕事で家を出る前に慌てて取り込むだけ取り込んだ。夜になって帰ってみると、取り込んだ布団の上で眠るホークスの姿があった。
物音をたてないよう忍び足で窓際の布団へと近寄った常闇は、珍しく仰向けで寝ているホークスの頭の傍でしゃがみ込み、小さないびきの音に耳をすませた。
ホークスはなぜか常闇の家、特に、そもそもはダークシャドウのためにと思って用意した 一人用にしては大きいサイズのベッドをいたく気に入っている。二人で会う時も常闇の家が多くなり、合い鍵も早々に渡している。
その鍵が使われたのは、多分今日が初めてだろう。
いつ来たのかは定かではないが、恐らく昼食をどこかでたらふく食べた後か。膨れた腹を抱えて干し立ての布団を見れば、動物がどうなるのかは想像するまでもない。
罠を仕掛けたつもりはなかったが、結果的にそうなってしまったな。
思わず口元がゆるむ。それを自覚しながら、目の前の大きく開いた口の端の涎をティッシュで拭う。その刺激に対して小さな唸り声をあげ身じろいだ体が、いつになく自由に寝返りを打って布団の上を転がっていく。
横向きになり、常闇の方に背中が向けられると、Tシャツの2つのスリットから肩甲骨のでこぼこが覗く。そこに、小さな赤い羽根が生え始めていた。
古い火傷痕の残る肌の上、木々の新芽のように、通常の羽根よりもより鮮やかで明るい色をしている。小指の先ほどの小ささでも、十分な生命力が感じられた。
それを見ていた常闇は、涙が出そうになって
羽根の無い姿を見ると、忘れ難い過去の記憶が刺激され、目には見えない胸の傷が痛む。
昨日、常闇が止める間もなく、火災したビルの中へとすべての羽根を投入した時もそうだった。
結果的には人命救助も敵確保も無事完遂。ホークスも、羽根のほとんどを失いはしたものの、体には怪我ひとつ負っていない。
それでも、なんとか戻って来た燃えカス同然の数枚の羽根を片手に「やっちゃった」と苦笑いを浮かべるホークスに、憤りを覚えたのも事実だった。
――俺は、君ほど自分の個性に思い入れがないから。
いつかに言われた言葉が、見えない傷を別の角度から抉る。
その痛みを誤魔化そうと、目の前で寝息に合わせて上下する肩にそっと触れる。Tシャツの布越しに、体温が手の平へと伝わってくる。そのまま、やわらかい新芽を潰してしまわないように慎重に、力の抜けている背中を抱きしめた。
俺が愛す。俺が、あなた以上に、あなた自身もあなたの翼も。
面と向かっては言葉にできない誓いを胸の内で呟くと、心がわずかに落ちつく。
気のぬけたそのまま、移動するのも面倒になり眠気に体を任せた。