ツキハヒガシニ

    

SS

    
シンラクサカベは受け入れられない 1
エピローグ軸紅備、シンラ視点


 世界を創り直したからといって、その世界で生きる人間の意思まで操れるわけじゃない。特に、自分が誰に好きになられるか、誰を好きになるかなんていう感情の面は、むしろ前より一層不可解になった。
「はぁ~あ、シンラが無駄にモテるせいで俺らまでとばっちりだよ」
「悪……くはねェよ。俺だって、別にモテたくてモテてるわけじゃないから」
 再三繰り返されてきた要求を今回も俺が撥ねつけた後、インカはいつもの通りその場から姿をくらました。後に残されたモンスターは「本当に俺のこと好きなのか?」と疑いたくなるくらいには狂暴凶悪で、俺たちは文字通りに命からがらの討伐戦を終えたばかりだ。
 母親しかり、女性に振り回される人生なのは前の世から続く定めなのかもしれない。だからと言って、オグンに愚痴られるほどの責任は俺には無いだろ。
 先遣隊として送られたそのまま前線を任され奮闘したアーサー含む俺ら三人(とエクスカリバー)は、地べたに座り込んで水分を補給しながら、疲れたー疲れたー、と緊張感から解き放たれた反動で中身の無い意味のない文句を吐きながら休んでいた。
 少ししてようやく息が整い出した頃、オグンが「そういえば」と遅れて合流した陣営の方をチラリと横目で示した。
「あっちこっちでくっつきすぎっていえば、あの人らもだよな」
「え? 誰の話?」
 オグンの意図が分からない俺は、素直に訊き返した。視線を辿っていった二十メートルほど先には、情報端末を持ったヴァルカンを囲んで立つ桜備総隊長、火縄副指令、新門総指揮、紺炉総指揮補佐の、合わせて5人の姿があった。決まったパートナーがいる人間も含まれているが、そこら辺はあえて含みを持たせるような話題じゃない。
「だーかーら、総隊長と総指揮。あの二人付き合ってんだろ」
 完全に油断していた。
 訊き返したあと水筒に口をつけていた俺は、予想外の答えに驚き、含んでいた分の水を一気に噴き出した。ついでに気管にも入ってしまい全身でせき込んでいると、隣にいたアーサーが眉をひそめ俺との間の距離を広げた。
「おいシンラ、汚いぞ。水くらい溢さずに飲め」
「だっ、て、おいオグン、それ冗談だとしてもさすがに笑えねえって」
「冗談じゃなくて、マジのマジ。それに、俺よりもアーサーの方が先に気づいたぜ。なぁ、アーサー」
「見てれば分かるだろ」
「こいつの言うことは信用できねェ。なに、なんか証拠あんのかよ。ただの噂話だったら承知しねェぞ」
「いやいや、なんでシンラがそんなキレてんの? 普通にこえーんだけど……。うーん、証拠ってもなぁ……あ! 俺この前ふたりがキスしてんの見かけたわ。たまたまだけど、野営のテント裏で」
「動かぬ証拠すぎんだろぉ?!」
 どうか何もあってくれるな、むしろただの噂話であれ、という祈りも通じずにさっさと出てきたオグンの証言に、俺は思わず手にしていた水筒を潰しながら頭を抱えた。
「……わけ分かんねえ。なにがどうなってそうなってんだよ」
「さぁ…俺も詳しくは知らないけど。でも、この世界がどうなるかわからねェのに悩む時間がもったいねェってさっきシンラが自分で言ってたじゃんか。そういうことだろ?」
「いや、悩むだろそこは!!」
 前言撤回は男らしくないと分かりつつも、反射的にオグンの言葉に噛みついてしまった。オグンは俺のリアクションのデカさに体をのけ反らせて引いている。
 俺自身、脳みそん中が混乱しているのが自分でも分かった。ずしりと重たくなった頭を下げてう~んと唸りながら、恐る恐る、さっきオグンが見ていた方に目をやる。それでも直視はできなくて、視線はフラフラと“その辺り“をさ迷った。
 見るからに他の人の話を聞いていそうにない、どこか遠くを見ている新門総指揮の横顔。その左隣にいる桜備総隊長は、俺たちの居る位置からだと背中しか見えなかった。
 ずっと見てきた背中。背負うものが<8>から<DEATH>に変わっても出会った時からまったく変わらない、広くて大きい、憧れの背中だ。

畳む

    

or 管理画面へ