ツキハヒガシニ

    

SS

    
夾竹桃 桜備視点


 連日の酷暑は収まる気配もなく、日中はただ外を歩くだけでも汗が全身から噴き出てくる。
 浅草の町の外れ、地面に大きな影をつくる育ちすぎた夾竹桃の木の下で男は待っていた。
 晴天の夏空の下、花のピンク色はますます鮮やかで、微かな風に吹かれ意気揚々と枝ごと揺れている。
 夾竹桃は枝や花、葉っぱすべてに猛毒を含んでいて、燃えた煙を吸っただけでも健康被害が出る。
 その花について自分が知っているのは、消防隊員らしいそんな知識だけだ。
 俄かには信じがたい話だが、詰まらなそうな顔で影の下から花を眺めている男の体には、どんな毒もきかないらしい。
 それならそれで、今、なんの躊躇もなく花に手を伸ばしているのも理解できる。
 毒や棘を備えた花も、この男の前では無力で美しいだけなのか。
 日焼けとも無縁な横顔は白い。微笑みひとつすら向けてくれない男に、花達もただただひれ伏すしかないなんて、なんだか哀れだ。
「おい、そこの木偶の坊。ぼーっと突っ立ってると暑さでぶっ倒れるぞ」
 声をかけられて、慌てて意識を取り戻す。見惚れていたのか、足が自然と止まっていた。
「あ……なんか眩暈すると思ったら、暑さのせいか……」
「なに言ってんだ」
 と、花がもらえなかったささやかな笑顔をもらう。それに気を良くして、影の下から出てこようとしない男の元へと足早に近づいた。

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