SSS

短文まとめ、新しいものほど上にあります

馬鹿も休み休み

時期不定

---
前置き『浅草民からの適当な吹聴を受けて、自分と付き合っているのは紺炉に似ているからなのか?と疑問に思った桜備さん』
---

「はぁ?!頓珍漢なこと言ってんじゃねェよ。これっぽっちも似てねェだろうが」

「で、俺がもし紺炉に惚れ、はは……駄目だ、笑っちまう。惚れてたとして、代わりだったら何か不満でもあんのか」

「へぇ、手前一筋じゃなきゃ気にくわねぇか?」

「大体、タッパは同じでも体つきは似ても似つかねェぞ。紺炉は灰病になってこっち肉も落ちたからな。触ったら皮の下はすぐ骨だ。お前みたいな筋肉達磨と一緒にされちゃ向こうも良い迷惑だろうよ」

「あ?なんで触ったことがあるのかって?莫迦。傷の手当だよ。おいおい、一丁前に焼き餅とは、えらい風の吹き回しだな」

「おいおい、帰らせるわけがねェだろ。怒っちゃいねェし気分は悪かねェが、気には喰わねェんだよ。嘘でも紺炉の名前呼びながら抱いてやろうか。なぁ?」


(2025.11.20)

夾竹桃

時期不定 桜備視点

 連日の酷暑は収まる気配もなく、日中はただ外を歩くだけでも汗が全身から噴き出てくる。
 浅草の町の外れ、地面に大きな影をつくる育ちすぎた夾竹桃の木の下で男は待っていた。
 晴天の夏空の下、花のピンク色はますます鮮やかで、微かな風に吹かれ意気揚々と枝ごと揺れている。
 夾竹桃は枝や花、葉っぱすべてに猛毒を含んでいて、燃えた煙を吸っただけでも健康被害が出る。
 その花について自分が知っているのは、消防隊員らしいそんな知識だけだ。
 俄かには信じがたい話だが、詰まらなそうな顔で影の下から花を眺めている男の体には、どんな毒もきかないらしい。
 それならそれで、今、なんの躊躇もなく花に手を伸ばしているのも理解できる。
 毒や棘を備えた花も、この男の前では無力で美しいだけなのか。
 日焼けとも無縁な横顔は白い。微笑みひとつすら向けてくれない男に、花達もただただひれ伏すしかないなんて、なんだか哀れだ。
「おい、そこの木偶の坊。ぼーっと突っ立ってると暑さでぶっ倒れるぞ」
 声をかけられて、慌てて意識を取り戻す。見惚れていたのか、足が自然と止まっていた。
「あ……なんか眩暈すると思ったら、暑さのせいか……」
「なに言ってんだ」
 と、花がもらえなかったささやかな笑顔をもらう。それに気を良くして、影の下から出てこようとしない男の元へと足早に近づいた。


(2025.07.29)

隣にいると

エピローグ軸 桜備視点

 シンラが創り直し、世界は果てがどこかも分からないほどに広くなった。
「おお、ドラゴン……」
 今回初めて訪れた大陸を西に進み辿り着いた、360度巨大な岩と砂としか見えない乾燥した荒野。高台に陣取ったので見晴らしは良く、ひとつふたつ向こうの岩場の陰からあらわれ空を悠々と横切っていく動物にもすぐ気がついた。手の平で庇をつくって目を凝らし、そのファンタジックな存在を認識すると思わず感嘆が漏れる。
「えらいデカそうだな。しかし、鳥にしちゃ不格好だろ。よくあんな羽で飛べるもんだ」
 隣に立つ新門が、非対称な目を細めることもせずぼんやりとした表情のまま同じ方向を眺め、感心した様子で言う。
「まぁー、なんでもありですからね。羽なんてなくても飛んでるのいっぱいいるし……」
「アイツを狩って飼い慣らしたら移動が楽そうじゃねェか?」
 本気で算段をしているのか、腰に差した刀に預けた左手の指先が、トントン、と一定のリズムで柄つかの頭を叩いている。それを横目に見ながら、人に危害がないものには手は出さないでくれとか、そもそも一撃で殺さない方法を知っているのか?とか、言いたいことがいくつか頭に浮かぶ。
「そういえば、新門総指揮も発火能力が無くなって飛べなくなりましたね」
「今更だな」
「……能力が戻ったらいいのにな~とか、思うことあります?」
「べつに、思わねェよ。おかげで紺炉の灰病が治ったってのに」
 先遣隊の様子見のためにこの場を離れている男の名前が出て、柄を叩いていた指先の動きも止まる。「優しいですね」と素直な感想を漏らすと、照れ隠しなのか横目上目で睨まれた。
「それに、今でも本気出せば家二ツ分くらいは一足に跳べる。体の軽さで言えば前以上だ」
 ふふん、と口端をわずかに持ち上げ、珍しく得意げな表情を見せる。楽しそうで何よりだ、と思いながら空に目を戻すと、まったく知らない別の空のはずが、東京の、というよりも浅草の空と同じに感じるから不思議だった。



(2025.03.24)