お手並み

成し遂げたい紅丸、エロというより下ネタ。エピローグ前にしてますがもはやどっちでもいいような内容です。
※いわゆる攻めフェラ注意



「なあ桜備、しゃく、してやろうか」
 混雑した居酒屋のカウンターで紅丸がそう言い出した時には、双方自らの手酌でそれなりに杯を重ねている段階だった。“酌”には不自然なタイミングだったから、とりあえず首を捻った。首を捻りながらも、酔っ払った時の癖だけではないしたり顔の笑みに心当たりはあった。
「尺八。この前、花街で玄人に仕込んでもらったんだよ」
 こちらが敢えて物分かりの悪い振りをしていると、親指と人差し指で輪をつくって上下させるあからさまな手振りと共に、べえと舌を出し見せてきた。
 他の客も居る場では憚られる動作を手で制し、そのまま指の甲で飛び出た舌を撫でて仕舞わせる。仕舞う直前に一舐めしていった舌の表面のザラリとした感触に、背筋がむず痒くなった。それと股間も。
「……お手並み拝見、ってやつですか」



 前にも一度だけ。何の弾みだったかはよく覚えていないが、一所懸命ムキになって自分のものに食らいつく姿は健気だった。どんなに下手くそでも、むしろ下手くそだからこそ微笑ましく、歩き始めたばかりの子どもを見守るような高揚感はあった。たまに歯先が引っかかって痛むのもご愛敬で、「あの新門紅丸が」と思えば、ぎこちなく動く頭を見下ろしているだけでそれなりの興奮もあった。それでも、それだけで射精するには至らなかったのは事実で結果だ。

 さすがの負けず嫌い。こちらは何も気にしていなかったが、本人にとっては不本意な失態だったのだろう。まさかのリベンジの提案に驚いたものの、納得はできた。そうと決まれば、と早々に連れ込み宿の一室に場を移しながら、そもそも今日誘われた理由がこれだったのかと気づくと、その必死さがかわいく思えた。
 6畳間に布団一組。下半身だけ裸になれば用は足せるが、熊のぬいぐるみみたいで間抜けかとTシャツから脱いで全裸になろうとすると、それも制され、着込んだまま股を開かされた。
「なんだ、えらいきつそうだな」
 法被から両肩を抜きながら、股間を見下ろしニヤリと笑う。すると、口ではなく、まずは指先がズボンの合わせ目に触れてきた。目に見えた膨らみを、人差し指で尻の方からゆっくりと摩りあげ、ボタンまでたどり着くと、開いた手の平で一度大きく全体を揉みしだかれる。
「っん……」
 そのままボタンを外すと、ぐいと頭を下げ、ジッパーを指ではなく歯と歯の間に挟んで下げ始めた。
「……なるほど」
 静かな部屋に響く金具の音を聞きながら、思わず声に出た。脱がせるところからやらねば情緒がないと。これはたしかに、普段の欲望任せのやり方とは違う。仕込んでもらったというのも納得だ。
 感心していると、いつの間にか体を起こしていた紅丸の顔が目の前にあった。
 今からこの口と舌で舐るのだと教え込まれているかのような念入りなキス。酔いのせいもあって口内は熱く、すぐに唾液が溢れてくる。しまった、まんまと乗せられている。相手ほどではないが負けず嫌いの気はある。どうせなら我慢してやろうと考えていたが、無理かもしれない。
「は、ぁ……」
 弱腰が顔に出ていたのか、離れた後の目の前の顔は、こちらを見てにまりと笑っていた。見つめ合う最中も手は股間で器用に動き、ズボンの前を完全にくつろがせた後、すでにしっかり芯を持っている陰茎を下着のスリットから取り出している。
「……あっ」
 まずは舐められると思って構えていたら、尖らせた唇の先で先端に触れたそのまま、一気に根元までかぶりつかれて動揺する。キスで溜まった唾液をそのままたっぷり残した口内に包まれると、途端に腰の力が抜けた。後ろ手で体を支えていた両腕の肘が折れそうになったのを慌てて立て直しはしたが、長くはもたなそうだ。
 一度咥えこんだものを唾液の音を立てて吸いながら抜き取ると、完全に離れる直前で舌が亀頭の段差に絡みつく。左手は太ももを摩り、右手と舌とが蠢いている。黒い頭で視界を遮られているから仔細は見えないが、感覚で何をされているかは粗方わかる。
 原国式の畳と布団にも慣れたとはいえ、こういう時はベッドの方が楽だな。ついに支えきれなくなった上体を布団に倒し、薄暗い天井を見上げる。視界から黒い頭が消え一瞬気が緩むが、それを察した相手に裏筋をべったりと舐め上げられた。
 根元を支えていた手が離れ、左右の金玉を布のお手玉のように揉む。その指の一本が意図的かは分からないが肛門の方へとわずかに近づくと、股間とは別の腹の奥が疼いた。条件反射で期待し求めてしまうようになっている体が憎い。手練手管はなくても相性の良さと惚れた弱みだけで十分満足させられているから、リベンジなどしなくても……とこの期に及んで思ったが、そんな思考も長くは続かない。
 弱いところを舐められ吸いつかれ、意識がとにかくなんでもいいから達したいという方へと流れていく。汗や唾液とは違う液体が滲み出しているのを、普段から煙の臭いに敏感な自分の鼻が捉えていた。
「はっ、あぁ……なぁ、ちょっと……」
 腕を伸ばし、汗ばんでいる髪を撫でる。太ももで引っかかる硬いズボンがわずらわしいから脱がせてくれと頼むと、素直に下着ごと取り去ってくれた。その間の休憩で多少落ち着きを取り戻せたと思ったものの、緩急というやつか。再開すると、ここから終盤とばかりに相手の責めも一段激しさを増した。
 全身と共に上下する頭。先端が上顎に擦れる感覚に、いよいよ忘れそうになっていた女性相手のセックスの感覚が蘇りそうだ。途中一拍置いて、太ももを押さえている手に力がこもった。視界の端で、頭が今までよりも一段深く沈む。まさか、まだ深い喉奥があったのか、と驚くと同時に、もとから先まで搾り取る新たな刺激に眩暈を覚えた。
「うわ、も、いっ……ちまいそう」
 思わず漏れたこちらの声に応えたのか、咥えたままの紅丸の口がなにごとかを喋る。ダイレクトに伝わってくる喉仏の振動に、耐えきれず頭を振る。抱き着く先のない腕を布団の上でさ迷わせ、しかたなく布を掴んで力を込めた。
 自然と相手の背中を抱え込んでいた脚が痙攣する。そこで相手もこちらの限界を察したのか、ずるり、と口内を抜け出る感触と射精のタイミングはほぼ同じだった。
「っと……こりゃ、威勢が良いな」
 粗い息を落ち着けながら首をもたげると、我ながら逞しい太ももに挟まれた顔は満足げだ。唾液と精液で濡れた口元をぐい、と手で拭う様子も、目的を達したせいかさっきまでの艶も消え、普段のガキ大将に戻っているようだった。
「そういや、仕込んでもらったって、実地訓練ですか?」
 普段のトレーニングの賜物で早々に立ち直った俺が体を起こしそう尋ねると、掌の汚れを拭っていた相手の動きが止まる。
「あ?」
「自分がしゃぶってもらったってこと……」
「ばっ、ちげぇよ! 酒の席での口伝えだけだ」
「ふーん……」
 俄かに信じがたい。とは言え、この場で嘘を吐ける性格ではないか。そりゃ、されていないに越したことはないが、されていればそれはそれで負い目を責めて上手に立てたのにと残念にも思う。
「それでまさか、自分だけやって終わりと思ってないよな?」
 すっかり気の緩んでいる男がこちらの言葉を受けとめ理解する間を待たずに、さっきまで自分が転がっていた場所に相手を追いやり、膝の間に割って入る。
「大体6分20秒」
 部屋に入った時に外して枕元に置いておいた腕時計を取り、相手に向ける。
「仕込まれちゃいないけど、人生経験の長さではこっちに利があるんでね。負けませんよ」
「おいっ、ちょっと待」
「じゃ、よーーいスタート」
 合図と同時に時計を放り、ほとんど乱れていない相手の服に手をかける。本気で動揺しているのか、目は泳ぎ口元は引きつっていた。強張った頬に軽くキスをするとバネ仕掛けみたいに全身が跳ねたから、思わず噴き出しそうになるのを耐えた。ほんと、かわいいやつ。





(2025.09.30)