大晦日
今年も残すところ半日となった大晦日の昼、さりとて革命に盆も正月もない。
FGI社の業務の隙間を縫っての、連合のフザけた奴らに命じられた雑務、解放戦線の計画に関連した施設のハッキングエトセトラエトセトラ…仕事納めなぞという言葉とは無縁だ。
そんな折、にわかに空腹で集中力が途切れたところで、件の胡散臭いNo2ヒーロー・ホークスの動向チェック用のモニターに目を向けた。
「位置情報は静岡東部。移動速度が…毎時4km。徒歩か。あの鳥男が歩くとは珍しい」
どれどれ、と音声と映像の出力を目の前のモニターへと切り替える。
殊更に怪しんでというほどでもなく、昼飯のカップ麺を食べる間の手持無沙汰を解消するための、ただの好奇心だ。
それに、先日取り付けたばかりのマイクロデバイスがちゃんと作動しているのかも気になっていた。
本人の目線とほぼ同じ画角のカメラ。
歩くのに合わせて上下に揺れるその画面には、黒い鳥人の横顔が映っている。まだ幼い。制服から察するに、雄英高校ヒーロー科の生徒か。
雄英高校の動きも当然把握している。この大晦日、ヒーロー科の生徒はプロヒーローのお守り付きでの帰省だそうだ。こちらは着々と準備を進めているというのに、随分と暢気なことじゃないか。
「常闇くんも、折角の帰省が1日だけとは残念だね」
「事情が事情だ。やむを得ない。しかし、どうしてホークスが? 俺の担当はたしか…」
「あァそう、担当のプロヒーローに急用が入ったらしくて。たまたま近くにいた俺が送りだけピンチヒッターでね」
「そうか。忙しいだろうに、かたじけない」
「平気平気!にしても、寒いねー」
くだらん雑談だ。昼飯の暇つぶしでもなければ到底聞いていられない。
「年明けからは、またインターンで世話になる。その時にでも何か礼をさせてくれ」
「あー……じゃあさ、今ここで、オメデトウって言ってくれない?」
「おめでとう?」
「実は俺、この前が誕生日だったんだよね」
「この前と言うと…」
「28日」
「そうだったのか!露ほども知らず失礼を――」
「知らなくて当然。そもそも公表してるプロフにも載せてないから」
「なぜだ?祝いたい人間は多いだろう」
「まーね。でもなんというか…誕生日、あんまり得意じゃなくて」
「誕生日に得意も苦手もあるものか?変なことを言うな」
「君には負けるよ」
「まあいい。遅れてしまったが、祝わせてくれ。おめでとうホークス。この世に生を受け、ヒーローになってくれたことに感謝している」
「……ありがと」
「どうして恥じるんだ。自分から言い出しておいて」
「自分から言い出したせいで、余計恥ずかしいんだよ」
「やはり変だな」
「はいっ、この話終わり。あ、そうだ。これこれ。おすすめだから、冬休み中に暇だったら読んでみて」
ホークスの差しだした我らが聖書を少年が手に収めたところで、俺の短いランチタイムも終わった。
「はいはーい。スケプティック、何の用です?」
『新年会の出欠確認をとっている』
「新年会?」
『言い出しっぺはトガだ。詳細は知らん』
「行けたら行きますわー、俺もそこまで暇じゃないんでね」
『本当か?学生の面倒を見れる程度には暇なんだろ。一昨日だったか、わざわざ本来の担当に頼んで交替してもらった経緯もこっちは知ってるぞ』
「あら、色々とバレてる。…いやー実は俺、彼のこと買ってるんスよ」
『ヒーロー側の戦力として?それは穏やかじゃないな』
「じゃなくて、デストロの思想に共感してくれるんじゃないかって。そういうの好きそうなタイプなんでね~」
『同士は多いに越したことはないが……ガキは好きじゃない』
「連合のメンツと年齢的にはそんな変わらんですよ?」
『だから嫌なんだよ!』